[資料] 複雑系: セル・オートマトン / 人工生命のシミュレーション / 進化する仮想生物 / 2次元セル・オートマトン+音楽生成装置、他


※ 講義用資料


― 記 事 内 容 ―
 □ セル・オートマトン     □ 人工生命のシミュレーション     □ 進化する仮想生物
 □ 2次元セル・オートマトン+音楽生成装置     □ マルチエージェント・システム、他



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セル・オートマトン


ブリンカー



 セル・オートマトン〔セルラ・オートマトン;(複数形)〜・オートマタ〕:
 パズル仕様の計算モデル。
 縦・横・斜めで計八つの近傍それぞれの「オン/オフ」を内部状態としてもつ「セル」が、任意の単純な規則に従い、ある入力によって内部状態を時々刻々と(離散的に)変化させ、配列関係を不連続に変えていく。
 原理的にはn次元のセル・オートマトンが可能だが、実際には3次元の範囲内で研究されているという。


 上に引用した図・動画*1は「ブリンカー」と呼ばれる2次元セル・オートマトンの単純な事例。
 各セルの変化が、全体としては縦・横の二周期で振動・点滅する振るまいを作り出している。


グライダー

 左に引用した図・動画は「グライダー」と呼ばれる事例。
 隣接しあう各セルの変化は、三つの内部状態を経て元に戻るが、全体としては格子状の平面を規則的に斜めに移動していく、という振るまいを実現している。








関連ページ:

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□ 人工生命のシミュレーション



 人工生命の単純な事例としての「ボイド」(boid < bird+oid)。
 ボイドとは、コンピュータ上で鳥や魚などの集団行動を模倣・表現する人工生命の略称。
 微視的には、セル・オートマトンのように非常に単純な規則に従って振るまうのに対し、巨視的には、カオス的で複雑な秩序を生成する。


 個々のボイドは、その基本型において、以下の三つのルールのみにもとづいて行動するようにプログラムされている。


  • 分離(左図): 近隣の仲間や障害物と衝突しないようにすること。
  • 整列(中図): 近隣の仲間と方向・速度などを合わせること。
  • 凝集(右図): 仲間が多くいる場所に向かうこと。

 以上のルールにもとづき、各ボイドは自分にとって「最適」な距離を保つべく振るまう。


参考ページ プログラム:

  • 「ボイドアプレット」 [→ URL] [作成: 中田豊久氏(新潟国際情報大学)] 2次元世界で行動するボイドのアプレットがページ内に組み込まれている。各自で誘引物・障害物を作成し、秩序が変化していくさまを体感できる。


参考ページ 動画:
 入手しやすい関連動画を引用。
 コンピュータ上に構成された3次元世界で行動するボイドの集団。
 餌を食べる(黄色い板の周辺に集う)という「目的」をめぐってさまざまな協調行動が生成している。
 (cf. Evolving Flocks | breve)





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 この種のモデルの内部には、全体の秩序を指定する単一の設計や中心的なプログラムが存在しない。
 個々のエージェントに組み込まれているのは、基本的に、単純な行動規則のみである。
 にもかかわらず、全体として、一定の秩序が自ずと出現してくるように見える。


 このとき、個々のエージェントの振るまいよりも高次の水準で、低次の水準では生じていない或るダイナミクスが観察されていることになる。
 あるいは、エージェントの集団からなる全体は、個別のエージェントに還元できない「創発特性」を有している、などと(この場合は存在論的に)表現される。


 人工生命研究では、人工的なシステムの内部であたかも自生的に創発してくるように見えるこの種の現象を手掛かりとしながら、生命の「本質」を捉えようとする研究がなされてきた。
 もちろん、人工生命は、実際の生物ではないし、地球上に生息するのと同じ生物がコンピュータ上に作り出されているわけでもない。
 ここでの関心は、むしろ、実際の生物集団が作り出している秩序と同様の特性を、コンピュータ上で構成する作業を通して、生命現象をいわば理論的に把握することにある。
 その場合、首尾よく構成されたモデルは、生命を外的に模写したものであることをやめ、むしろそれ自身が、地球上での生命を制約してきた炭素鎖の生命モデルを拡張するような、論理的に可能な生命の一事例となる。


 また、このように構成された生命モデルの論理・法則・規則などは、適切な変更を加えれば、動物集団にだけではなく、例えばヒトによって作り出される文化・社会・経済・歴史などのような巨視的な現象のもとでも、それらと類比的な形式が見出されうる等々と推定されており、実際にそのような方向でも研究が進められている(ただし、そこでは、全体として、社会・経済などに関する「自由主義」一般と親和的なモデルが前提され、指向されている)。


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関連ページ:

  • ボイドの解説 [伊庭研究室(東京大学工学系研究科電気系工学専攻融合情報学コース)] サンタフェ研究所で開発されたボトムアップ・シミュレーション用のライブラリ「Swarm」によるボイドの解説。他にもさまざまなシミュレーションの素材が提供されている。
  • Boids [作成:クレイグ・レイノルズ] ボイドの発案者による解説文(英語)。


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□ 進化する仮想生物


 コンピュータのなかで進化する仮想生物。
 この仮想生物は、「遺伝子」をもち、その表現型として、複数のブロックからなる「身体」を有している。
 この場合、「遺伝子」とは、身体を構成する諸々のブロックのあいだの接続情報を指している。
 有向グラフ(つながりの向きを表現したグラフ)によって表現されるこの接続情報は、複数のブロックを制御する神経回路網(ニューラル・ネットワーク)をなしており、刺激反応系として機能するという。
 刺激を受容するべく、仮想生物には、いくつかの感覚器官(センサ)が備わっている。
 感覚器官へのある入力に応じて、各ブロックに出力が生じ、行動が引き起こされる。
 さらに、仮想生物の進化を引き起こすために、環境内における各種の適合度を計算する諸々のオペレータが組み込まれているという。


関連ページ:

関連文献:

  • 伊庭斉志『複雑系のシミュレーション ― Swarmによるマルチ・エージェント・システム』(コロナ社、2007年)、45-7頁を参照。


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□ 2次元セル・オートマトン+音楽生成装置

〔…〕


 引用した事例〔のち、所在不明〕は、2次元の(面状の)セル・オートマトンの変化と音響とが、準同期的に関係しあいながら作品を生成するようにプログラムされた、音楽生成装置の実演。
 作成:Ge Wang氏(スタンフォード大学、音楽と音響におけるコンピュータ研究センター)


関連ページ


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□ マルチエージェント・システム

 乱雑な状態から秩序が自己組織化されていく様子。



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*1:  ただし、引用した二つの動画はOS環境によっては画像が静止したままとなる。